ジャスパー・フォード/桐谷知未訳 『雪降る夏空にきみと眠る』 (竹書房文庫)

雪降る夏空にきみと眠る 上 (竹書房文庫)雪降る夏空にきみと眠る 下 (竹書房文庫)

冬眠する九十九・九九パーセントの人々にとって、冬とは抽象的な概念だ。眠りに就いて、目覚める。願わくは、十六週間後に。

長い冬を乗り越えるため,人類が冬眠する道を選んだ世界.冬季取締官になったチャーリーは,ナイトウォーカーとなったティフェン夫人を〈セクター12〉に送り届ける任務につく.

長く過酷な冬のウェールズ.冬季取締局とハイバーテック・インダストリー社が管理する世界では,多くの人々が各地の睡眠塔(ドーミトリウム)で眠り,ブリザードの舞う屋外では春蠢(スプリングライズ)を迎えられなかったナイトウォーカー,冬季不眠症患者(ウィンソムニアック)冬牧民(ウォマド)盗賊(ヴィラン),そして冬の魔物(ウィンターフォルク)が暗躍していた.

「冬」に覆われた世界を描く歴史改変SF.冬を頭につけた造語の数々と,荒れ果てつつも独自の文明を(千年以上のオーダーで)築き上げた世界にどことなく「Fallout」みを感じる.政治,社会,産業,風習,文化,歴史とあらゆる面から描かれる冬の世界は,読み進めるごとに驚くような新事実が少しずつ,確実に出てくるのがすごい.密度はかなりのものなのだけど,情報の出し方が恐ろしくうまい.しっぽまであんこぎっしり,最後まで飽きない.改変世界ものが好きなら,あるいは表紙イラストに惹かれるところがあれば読んでみて損はないはず.



雪降る夏空にきみと眠る 上 (竹書房文庫)

雪降る夏空にきみと眠る 上 (竹書房文庫)

雪降る夏空にきみと眠る 下 (竹書房文庫)

雪降る夏空にきみと眠る 下 (竹書房文庫)