遍柳一 『ハル遠カラジ3』 (ガガガ文庫)

ハル遠カラジ (3) (ガガガ文庫)

ハル遠カラジ (3) (ガガガ文庫)

「ラヴァン機関の搭載以降、人工知能というのはどこまでも理想の善を求め、あらゆる悪を憎む思考形態へと変化してしまった。人として理想とすべき姿を、機械に押し付けてしまったんだよ、私たち人間がね。もちろん、私も同じ人間なのだから、責任を追うべきうちの一人だろう。だからこそ医工師として、ちゃんときみの病に向き合わせてもらうつもりだよ。それもまた、決して罪の償いにはならないけどね」

成都を発ち,医工師のいる大連に向かった一行.何かに思い悩むことが増えたハルに,母としてテスタは気に揉んでいた.その旅程で,ナイジェリアから中国の唐山に向かう途中の医療用アンドロイド,ローザと出会い同行することになる.

ポストアポカリプス世界で描かれるAIの母と人間の娘の物語,第三巻.ついに医工師のもとにたどり着き,物語にも大きな転機が訪れる.娘が好きすぎる母親の,やりすぎなくらいの甘々な述懐から始まり,火星にまだ生き残っているかもしれない人類に会う夢を語る.はじめてのおつかいやらウエディングドレスやら,いわゆる日常回かな? と思いながら読んでたら,言語は人間の可能性を広めたのか狭めたのか,そもそも『人間』とは何なのかという思弁へと至る.

主人公がAIなので,基本的には淡々としているんだけど,娘のことになるととたんに過敏に,ときにはとても鈍感になる語りがほんと楽しい.AIの考える『人間性』と,それを与える行為としての子育ての関連をはじめとして,エモーションとロジックの噛み合わせと言うか,危うい両輪がうまくバランスを取って回っていると言うか.まだ結末は見えないけれど,とても素敵な小説だと思います.