手代木正太郎 『むしめづる姫宮さん』 (ガガガ文庫)

むしめづる姫宮さん (ガガガ文庫)

むしめづる姫宮さん (ガガガ文庫)

「一寸の虫にも五分の魂という言葉があります」

「小さな虫にも、五分っぱかしの魂はあるって言葉だろ?」

「ええ。でも、虫の魂が五分なら人間の魂だって五分です。五分五分です」

虫の魂が集まる町,宮城県宮城郡浦上町.虫の魂は時に思春期の若者に惹きつけられ,取り憑くことがあるという.ある日突然,身の丈に合わない行動を取るようになってしまった高校生,有吉羽汰は,悪い虫を落としてくれるという山の上の浦上神社に行くことになる.

「ありんこ」を自称する男子高校生と,虫を愛する人見知りの激しい女子高生の出会いと成長を描く,少し不思議な青春小説.とことんまで卑屈な羽汰といい,虫以外のことになるとてんでダメな姫宮さんといい,突き抜けた個性を持ったキャラクターたちが,出会いや虫との邂逅を経て,ちょっとずつちょっとずつ成長する.オーソドックスな題材ではありながら,地に足のついた描写にヒリヒリさせられる.何より,震災で一変してから数年が経った東北の田舎町(作者の故郷がモデルとのこと)の生活を,肩肘張らない自然な視点で描いているのがとても良かった.

作者の現代劇ははじめてだったので,正直最初は結構な違和感があった.派手さはあまりないけれど,「虫の魂も人間の魂も五分五分」という一貫したテーマが感じられる.良い青春小説でした.