伴名練 『なめらかな世界と、その敵』 (早川書房)

なめらかな世界と、その敵

なめらかな世界と、その敵

己の持つ力で他人(ひと)の心を正しい方に均すことができるのであれば、いずれ歯止めがきかなくなるかも知れない。世界の大半を己に賛同する、正しい心の持ち主にすることができるのであれば、果たしてその誘惑に、自身が打ち克てるだろうか、そうお考えになったのでしょう。

いくつもの並行世界を自由に行き来する少女たちを描いた「なめらかな世界と、その敵」.ゼロ年代SFの勃興をルポルタージュ風に描いた「ゼロ年代の臨界点」.『ハーモニー』にトリビュートを捧げる,至上の愛の物語,「美亜羽へ贈る拳銃」.世界に平和をもたらした奇跡の聖女に宛てた妹の手紙,「ホーリーアイアンメイデン」.シンギュラリティに到達した1960年代ソ連を描いたおもしろSF「シンギュラリティ・ソヴィエト」.修学旅行帰りの生徒たちを乗せた新幹線を襲った未曾有の災害と,それが引き起こしたものを描いた「ひかりより速く、ゆるやかに」はまさに「いま」を描いたSFだと思う.「2010年代、世界で最もSFを愛した作家」の手による,『少女禁区』以来二冊目の短編集.どこからも文句のつけようがない.いずれ劣らぬ傑作揃いの短編集でした.

きみはこの物語の結末を知っている。

きみがこの物語の、結末なのだから。



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