伊瀬ネキセ 『HELLO WORLD if ―勘解由小路三鈴は世界で最初の失恋をする―』 (ダッシュエックス文庫)

HELLO WORLD if ー勘解由小路三鈴は世界で最初の失恋をするー (ダッシュエックス文庫)

HELLO WORLD if ー勘解由小路三鈴は世界で最初の失恋をするー (ダッシュエックス文庫)

「怖がらなくても大丈夫。根源が情報であれ血肉であれ、その都度思考して変化を生み出していくものを、わたしは単なる記録とは思わない。数字は自然のもので、アルタラが記憶しているものが数値なら、やはりあなたも自然の存在なの。ただほんの少し、在り方が違うだけ」

中学校の卒業間際.誰にも知られないまま失恋した勘解由小路三鈴は,変わりたいと強く願うようになっていた.そんなある日,ひとりの女性が三鈴の前に現れる.彼女は勘解由小路ミスズ.20年後の未来からやってきた三鈴本人だと言う.

野崎まど原作『HELLO WORLD』の,あり得たもうひとつの物語を描くスピンオフ小説.堅書直実と一行瑠璃.大切な友人であり,憧れのひとであるふたりの恋を,未来からやってきた自分とともに密かに応援するうちに,三鈴の心境は変化していく.本編のSF好きな高校生男子が,この世界がイーガンであると理解したのに対して,こちらの中学生女子はこの出来事が「バック・トゥ・ザ・フューチャー」みたいなものだと理解する.物語の色というか,明確な対比が出ている導入がうまい.

グレッグ・イーガンをモチーフにしたであろう原作を下敷きにして,この上なくまっすぐな「if」の物語を描いていると思う.それは世界の在り方だったり,本編のふたりの別の一面であったり,本編ではあまり語られなかった三鈴という少女に起こり得た「“誠実な失恋”」である.「世界で最初の失恋」というサブタイトルの意味がわかった時には素直に感動した.ある部分では原作よりも好きかもしれない.堀口悠紀子の繊細なイラストもとても良い.こちらも何らかの形で映像化されるといいな.



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