松屋大好 『無双航路 3 転生して宇宙戦艦のAIになりました』 (レジェンドノベルス)

「お姉ちゃん! 助けて!」

「ごめんね。ごめんねトゥリヌス」ソハイーラが顔を覆った。本質的には何も“感じて”おらず、プログラム的な反応にすぎないとわかっていても、心に来るものがあった。

質量弾が命中した。

クオリアの消えたソハイーラの身体に入り,皇帝として振る舞うことになったアサガヤシン.ローマ帝国を乗っ取ったオクタヴィアヌスと対峙するアサガヤシンに,帝国と敵対する連合の法王インノケンティウスが接触してくる.

巨大AIである“月”を従えた帝国に立ち向かうのは,AIであり人間であるアサガヤシン.転生もの×スペースオペラ第三巻.明言はされていないけどお話的には一区切りなのかな.最後まで「無双」からは程遠かった.

高次元に存在し,すべての人類が繋がっているという「クオリアワールド」.聖櫃の中にある地球.作中における転生のメカニズムは「筐底のエルピス」と共通したところもあるのかな.スペオペならではの,文字通り次元の異なる解決法には眼を見張った.タイトルをきれいに回収するエピローグもとても良いし,アイデアの数々は本当に読むところが多い.都合のいい展開もそれなりにあるけど,大時代的なところにも敬意を払いつつ,スマートなアップデートに成功した,とてもよいSFだと思う.読者を選ぶであろうテーマとタイトルに食わず嫌いをしないで,初心者もうるさいひとも,騙されたと思って読んでみるといい.楽しかったです.