松村涼哉 『僕が僕をやめる日』 (メディアワークス文庫)

僕が僕をやめる日 (メディアワークス文庫)

僕が僕をやめる日 (メディアワークス文庫)

どうしてだよ、と立井は呟いた。

悪くなかったじゃないか、この二年間。お前が何を考えていたのかは分からねぇけど、嫌な事ばかりじゃなかっただろう。

なんでだよ、高木。どうしてお前は――。

「死ぬくらいなら――僕の分身にならない?」.生きることに絶望し,自死を選ぼうとした立井潤貴の目の前に,高木健介という同世代の青年が現れる.それ以降,立井は表では大学生の〈高木健介〉として,高木の所有するマンションで同居生活を送ることになる.そんな日々が二年間続いたある日.とある殺人事件と前後して,「高木」が何の前触れもなく失踪する.

自分が入れ替わった〈高木健介〉とは何者なのか.二年間を共に過ごした恩人である「高木」の行方を探す立井は,〈高木健介〉が経験してきた壮絶な過去を追う.少しずつ輪郭が明らかになる〈高木健介〉の人生.やがて高木がやろうとしていること,そして高木が立井を選んだ理由にたどり着く.

家族の離散と生活保護,無戸籍児,特殊学級,「施設」.誰にも見つけてもらえなかった弱者たちの,魂の救済の物語.『15歳のテロリスト』でやりたかったであろうことを昇華し,己のものとして見事に描ききった,という印象を受けた.誰も見てくれないけれど僕たちはここにいる,僕の魂はここにある.「語れば語るほど嘘っぽくなる」ことを自覚しながら,それでも書かずにいられなかったという言葉の説得力に胸が苦しくなった.この感情をなんと呼べばいいのかわからない.デビュー以来の最高傑作だと思うし,個人的に今年のベストだと思う.社会派ミステリの大傑作でした.

気づけるわけがない。僕たちの窮状に。

混ざり合い、溶け合い、見えないのだ。僕たちの存在なんて。

だけど、それでも見つけてほしい――僕たちを忘れないでほしい――。

心が折れかけた日は、祈って、そして、縋ってしまう。

誰か、どうか僕たちを救ってください――。



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