こまつれい 『101メートル離れた恋』 (講談社ラノベ文庫)

101メートル離れた恋 (講談社ラノベ文庫)

101メートル離れた恋 (講談社ラノベ文庫)

――私は、私の存在を、あなたに許してほしかった。

男子高校生の浅田ユヅキが目を覚ますと,女の子の姿をした人形の中にいた.天才人形師,朝霧キョウコが作り出した世界最高クラスの美少女オートマタ,セブンスとして,あらゆるサービスに従事することになったユヅキは,元の世界に戻るあてもなく徐々に消耗していった.そんなある日のこと,依頼先で引きこもりの少女,イチコと出会う.

目覚めたらそこは魔法の世界で,俺は美少女オートマタになっていた.第8回講談社ラノベ文庫新人賞大賞受賞作.人権を持たないオートマタは,人間からありとあらゆる行為を要求される.ふわっとした「魔法の国」という言葉と,ドタバタした印象の世界はあっという間にひっくり返り,別の倫理観を持つだけの,元の世界とそっくりな世界であることが明らかになる.序盤は特に「JKハルは異世界で娼婦になった」の変奏のような印象で,百合SFというよりはジェンダーフリーSFとか,肉体と精神の関係の話なのかな……,と思って読んでいたらラストで目から鱗が落ちた.「SF」をこう使うのか,と.なるほど,これは「百合」で「SF」だ.

単なるテーマだけでなく,一人称が「俺」から「私」に変わるところや,「男らしさ」,「女らしさ」の所作も,できる限り丁寧に描こうとしているのは見て取れる.あらすじが公開されてから「これは百合ではない」とツッコミを受けていたのは見てたのだけど,ツッコミを入れていた人々を置き去りにして,一歩だけ未来に進んだ物語になっていた,と思う(宣伝の仕方が悪いともいえる).予想をはるかに上回る.良かったです.