折輝真透 『それ以上でも、それ以下でもない』 (早川書房)

それ以上でも、それ以下でもない

それ以上でも、それ以下でもない

  • 作者:折輝 真透
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2019/11/20
  • メディア: 単行本

これが自分の導いてきたサン=トルワンの姿か?

そんなわけがない。

私はどこで間違えたんだ?

1944年.ドイツ占領下にあるフランスの小さな村,サン=トルワンで,墓守の家に匿われていたレジスタンスの青年が何者かに殺された.村人の混乱を恐れたステファン神父は,ナチスに襲われた村に死体を捨てることで殺人の隠蔽をはかる.それから間もなく,村にSSが現れる.

戦争がもたらす混乱から村を守ろうとした神父の孤独な葛藤と,その末にもたらされた悲劇.第9回アガサ・クリスティー賞受賞作.第4回ジャンプホラー小説大賞金賞受賞作「マーチング・ウィズ・ゾンビーズ」とのW受賞デビュー作.「マーチング~」と同様の落ち着いた文体から,どうやっても振り払えそうもない,粘り着くような絶望感と空虚感を静かに描いてゆく.文体もだけど,キャラクターの個性づけもどことなく翻訳小説っぽさが強い気がする.

村にSSが現れたあたりがピークになるのかと思っていたら,本当の絶望はそのあとに来るという.戦争で壊れてしまった小さな村で,人々が復讐と私刑に走る様も,ナチスに燃やされることのなかったパリを燃やしたのは同胞だった,という皮肉も悲しい.登場人物たちの名前の見分けがつきにくく,巻頭の人物一覧と行ったり来たりしながら読んだのだけど,選評でも同じことを言われていたのでちょっと安心した(安心することではない).重くて辛い小説ではあるけれど,とても良いものでした.



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