テッド・チャン/大森望訳 『息吹』 (早川書房)

息吹

息吹

  • 作者:テッド・チャン
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2019/12/04
  • メディア: 単行本

探検家よ、あなたがこれを読んでいるいま、わたしはとうの昔に死んでいるが、それでも私は、あなたに別れの言葉を贈ろう。存在するという奇跡についてじっくり考え、自分にそれができることを喜びたまえ。わたしにはそう伝える権利があると思う。なぜなら、いまこの言葉を刻みながら、わたし自身がおなじことをしているからだ。

知識を探求することの面白さと尊さを短いページで語る「息吹」がやはりベスト.AIであるディジエントと,ふたりの開発者を中心に,テクノロジーの進歩と社会の変化のサイクルを描く「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」.すでに終わっていたファーストコンタクトと,その陰にある愛情を描く「大いなる沈黙」は個人的にはとても好きな短編.あらゆるライフログが保存され,自由に検索できるようになった社会における「思い出」と人間関係を語る「偽りのない事実、偽りのない気持ち」「商人と錬金術師の門」「予期される未来」「デイシー式全自動ナニー」「オムファロス」「不安は自由のめまい」と,いずれ劣らぬ傑作揃いの,テッド・チャン17年ぶり2冊めとなる短編集.読み終わってみると,あまりに現代的で,思いのほか人間くささに溢れた作品集でありました.


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