さがら総 『教え子に脅迫されるのは犯罪ですか? 6時間目』 (MF文庫J)

教え子に脅迫されるのは犯罪ですか? 6時間目【電子特典付き】 (MF文庫J)

教え子に脅迫されるのは犯罪ですか? 6時間目【電子特典付き】 (MF文庫J)

  • 作者:さがら総
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2019/12/25
  • メディア: Kindle版

褒めそやされてばかりでは、どこにも降りることができない。

ふくらむ一方の巨大な才能は、だれに割られることがなくとも。少しずつ、地上より離れて飛んでいく。紐の切れた風船のように。

「ご覧ください、天神先生。もうすぐわたし、月にだって手が届きそうです」

星花は天を仰いで嘯く。

だれも近づけない孤高の月が、伸ばした指の近くに浮かんでいる。無数の星々とは比べるべくもない、絶対的な夜の女王。

その周りには、虚無的なまでに広大な無限の闇が隠れている。

夏,中学受験へ向けて佳境の季節.講師の天神は生徒の退塾騒動に翻弄されていた.母親たちの問題やSNSにアップされた「悪意」に端を発すると判断した天神は生徒たちを集めてネットマナー講座を開くことにする.

誰にも手が届かない才能を持つ本物の天才少女.己には手が届かない,天才を殺すために小説を書くことを決意する少女.自分には何も才能がない,何者にもなることができないと諦める少女.「才能という悪魔」に翻弄される,少女たちと塾講師兼業小説家の物語,第六巻.才能がないことは罪なのか,才能がなければ何者にもなることができないのか.逆に,誰も近づけないほどに巨大化した才能は,ひとりでどこへ行ってしまうのか.「才能」が人間に,人間関係にもたらすものを,手を変え品を変え描いている.

モーツァルトとサリエリのようになりそうだった星花とヤヤの関係も穏当な方向に行きそうだし,自分を誰かと比較しては自信を失っていた冬燕にもひとつの答えが提示されたし,転換点になる巻なのかな……とちょっぴり思うものの,それだけで終わるとは到底思えないのは,作者に対する信頼(?)の証,なのかな.次回も楽しみにしてます.