シャサの面に憤りはなかった。ただ、心底不思議そうだった。
「心身を蘇らせ、新しい世界に生きる。そのようなことを言っていたな。だがそこで、おまえは何をするんだ」
シャサは責めるような物言いではなかった。その声はひたすら、穏やかだった。
「今生を生き抜く心のない者が、次の世で、いったい何をしようというんだ」
十二の系から成り立つ大地.ある日,系から隔絶されたアタの場が何者かに襲撃される.生き残った少女シャサは,集落に迷い込んだ「暁」の少年ナギと協力して,さらわれた仲間を探しにまだ見ぬ世界へと旅に出る.
人と神の間に生まれた神人が支配し,共に暮らす黄昏の世界.少年と少女の冒険の旅が,やがて世界の成り立ちへとたどり着く.第7回ハヤカワSFコンテスト特別賞受賞のファンタジー.別々の社会で成長した,価値観のまったく異なるふたりの出会いや,この世界がどういうものなのかだんだん明らかになっていく過程はわくわくするのだけど,全体で見るとオーソドックスなファンタジーなのかな.選評と同じ感想になっちゃうけど,もうちょっとブラッシュアップされていれば感想が違っていたのかな,という気がした.