伊崎喬助 『董白伝 ~魔王令嬢から始める三国志~』 (ガガガ文庫)

董白伝~魔王令嬢から始める三国志~ (ガガガ文庫)

董白伝~魔王令嬢から始める三国志~ (ガガガ文庫)

  • 作者:伊崎喬助
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2019/12/18
  • メディア: Kindle版

侍女と目が合った。

それはほんの一瞬のことであり、侍女はすぐに顔を覆って泣き崩れてしまう。

だが、その一瞬で俺に向けられたのは、刺すような憎悪。

俺は理解した。董卓とその一族が、これまでどうふるまってきたか。周囲の人間をどれだけ恐怖させてきたか。あの董卓を見たあとだから、簡単に想像がついてしまう。

城川ささね,30歳.口の悪さが災いして会社をクビになった無職の城川は,中華街の謎の占い師によって董卓の孫娘,董白に転生させられてしまう.このままでは董卓とともに死罪は確定.社会人の経験と三国志の知識をもとに,デッドエンドを回避すべく,幼女董白ちゃんは頑張るのだった.

三国時代を舞台にした転生幼女ファンタジー.董卓に孫娘がいたのは知らなかったけど,三国志オタク界隈では珍しいものでもないらしい(とあとがきにあった).テーマ的にはそれほど珍しいものでもないと思うのだけど,ディテールはしっかり描かれていると思う.董卓の孫という境遇であればこそ感じられる,猜疑心と狂気,恐怖.文章から鬱屈した時代の空気を確かに感じられ,読んでいて楽しい.

狂気に蝕まれた魔王董卓,天下無双を誇り己の欲望に忠実な呂布,実在しないはずの謎の美女貂蝉,なぜか変身ヒーローみたいになった関羽.無職になるまでの経緯が妙に生々しい(自分が転職した時を思い出した……)30歳の主人公も含めて,キャラクターもそれぞれ立っている.ずれ始めた歴史がどういう方向に向かうのかわからないけれど,ただ都合よく進む話ではなさそう.続きを楽しみにしてます.