陸道烈夏 『こわれたせかいのむこうがわ ~少女たちのディストピア生存術~』 (電撃文庫)

フウの身体を興奮が駆け廻った。ああ、これでまた私は昨日の私よりも賢くなれる。再び知識で満たされる喜びに全身が震えていたのだ。知識は命にもなり金にもなると。

ジャンク屋で手に入れたラジオだけが友だちの孤独な少女フウは,マイペースな腹ペコ少女,カザクラに出会う.ここは世界にただ一つだけ残ったヒトの国,チオウ.フウとカザクラは,力を合わせて王政府が敷く階層社会からの脱出を図る.

第26回電撃小説大賞銀賞受賞作.ポストアポカリプスでディストピアな,ガール・ミーツ・ガールSF.己の無知から母を失い,貧困の最下層にいたフウは,偶然手に入れたラジオから生きるための知識を身に着けて成長してゆく.「生まれて初めての科学的な思考」といい,上の引用部といい,知識を手に入れることを「喜び」としてストレートに描いており好感が持てる.

大テーマは「知は力なり」だと思うのだけど,なぜか俳句が挟まるバトルシーンからは『覚悟のススメ』を感じたり,フウとカザクラの遠慮のないやり取りから『キルミーベイベー』を感じたり.ポップな部分と,ハードなディストピアの振り幅は大きく,それでいて不思議なバランスが取れている.関節から蒸気を吹き出す人造人間や,砂漠に住むという伝説の竜といったケレン味も楽しい.「王政府は統計を偽っている」とピンポイントな指摘が入るのにもフフっとなる.とても良いものでした.