逆井卓馬 『豚のレバーは加熱しろ』 (電撃文庫)

豚のレバーは加熱しろ (電撃文庫)

豚のレバーは加熱しろ (電撃文庫)

――……より一層、行ってみたくなりました。お豚さん、私が死んだら、私をお豚さんの世界へ連れて行ってください。これが私の、最後の願いです。

友人に勧められるままに豚の生レバーを食べた俺は,激しい腹痛で気を失う.駅のホームにいたはずの俺は,目が覚めると,知らない豚小屋で豚に囲まれていた.金髪碧眼の少女に豚小屋から引き上げてもらった俺は,まごうことなき豚になっていた.

奴隷のような扱いを受ける「イェスマ」の少女と,気づいたら異世界で豚になっていたオタク大学生の最初で最後の冒険.第26回電撃小説大賞金賞受賞作.「イェスマ」と「王朝」を中心とした異世界の描写が面白い.女性しかおらず,子供の頃に小間使いとして売りに出され,16歳になったら帰ることが義務付けられている「イェスマ」.そのイェスマたちを生み出し,帰った者は二度と姿を見せないという「王朝」.王朝に帰るイェスマを捕らえるイェスマ狩りに,ある時から現れるようになったという生物ヘックリポン.ハイファンタジーとは言わないまでも,しっかり設定を練っていてファンタジーとしては意外と硬派だと思う.

細々した部分にも伏線があり,ラストは非常にきれいにはまっていた.豚だから光の三原色が見えないだとか,獣の広い視界を人間の脳で理解することだとか,ちょっとした工夫も良い.金賞は伊達ではないなと思いました.良かったです.