八目迷 『きのうの春で、君を待つ』 (ガガガ文庫)

きのうの春で、君を待つ (ガガガ文庫 は 7-2)

きのうの春で、君を待つ (ガガガ文庫 は 7-2)

  • 作者:八目 迷
  • 発売日: 2020/04/17
  • メディア: 文庫

「……カナエくん……」

あかりは顔を上げ、今もぼろぼろと涙が溢れ出す目を、まっすぐ俺に向けた。そして、嗚咽を押し殺し、絞り出すように言った。

「私は、カナエくんに任せる。だから……過去の私を、お願い――」

生まれ育った離島、袖島に東京から家出してきた高校生、カナエ。夕方の六時、袖島にグリーンスリーブスが鳴り響くとき、カナエの意識は跳躍する。幼なじみであるあかりの兄、彰人の命を救うため、時間をさかのぼり奔走するカナエだったが、そこにはある秘密があった。

その瞬間、全身からどっと力が抜け、思わず壁にもたれかかった。

――ああ。

氷解した疑問が、雪解け水のように全身の穴という穴から流れていく感じがする。

これで、過去と未来がつながった。

24時間ずつ、4月5日から4月1日へ。約束を果たすため、繰り返し時間を跳躍する。進む時間と戻る時間の中ですれ違う、幼なじみふたりの青春小説。シンプルなタイム・リープSFとして始まった物語が、ふたりの甘くて苦い過去を描き、だんだんと不穏な色を帯びていく。パズルのように謎が組まれた物語に引き込まれた。それだけに、ラストはむりやり取り繕ったような印象が強かった。ポジティブであれネガティブであれ、このテーマでこの「選択」をできる物語はそうはないはず。これはかなり意地の悪い感想だと思っているけど、個人的には別な形のハッピーエンドを見たかった。ともあれ、デビュー二作目の作品としては非常に安定しているのも事実。期待しています。



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