伊瀬ネキセ 『BNA ZERO ビー・エヌ・エー ゼロ まっさらになれない獣たち』 (ダッシュエックス文庫)

「わたしはあちこちで獣人と人間を見てきました。人間は確かに獣人を迫害します。でも、獣人が悪いこともあったんです。獣人は粗野で、乱暴で、しかもそれを自覚できていない」

「それは、その獣人たちが人間と出会ったばかりだからだ。お互いが馴染むためには、どうしても時間が必要になる」

「彼らがいて、我らがいる。それこそがこの世界の本当の姿なのだ。何かを消し去ってしまうことは正しくない。世界を受け容れ、変わらなければならない」

「受け容れて、変わる……」

繰り返す言葉が、すっと胸の奥に沈んでいった。

アニマシティを築いた市長、バルバレイ・ロゼが少女だった頃の話。獣人の神、銀狼に収容所から救われた少女ナタリアは、獣人と人間が共存できる道を模索していた。第二次世界大戦終戦後の〈追放運動〉。新大陸の港を取り仕切る、人間と獣人で組織したマフィア。内陸で独自のコミュニティを築く獣人の町。

ヨーロッパから新大陸へ。ナタリアと大神士郎は、旅の中で人間と獣人、ふたつの相容れない「ヒト」が暮らす世界を見る。アニマシティが誕生するきっかけとなる出来事を描いたスピンオフ小説。獣人の文化、個性、考え方、人間との違い、人間が支配する社会でどう生きてきたか。獣人にマイノリティを仮託して語っていると思われるところが多いため、危ういところも多いのだけど、キャラクターの魅力を生き生きと描いており、これ以上ないスピンオフになっているのではないかと思う。前向きな力強さの感じられる物語だと思いました。



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