一肇 『黙視論』 (角川書店)

黙視論

黙視論

  • 作者:一 肇
  • 発売日: 2017/05/31
  • メディア: 単行本

あるとき、不意に話すことをやめてみたら意外といけた。

もちろん、それはもう完全に誰とも話さないというわけではなく、極力不必要なことは話さないで生きていくということであり、高校の授業などで指されれば普通に音読もする。一切何も話さないとなればそれはそれで不自由となるのがこの世の中であり、ことさら日常会話に不必要なストレスをかけるのは私としても本意ではない。けれど、これは言うべきかな、いややめておくべきかなと迷った場合、黙したままでいても世界はまったくもって形を変えないし、むしろ趣深いことも多々あると気がついてしまった次第。

女子高生、幸乃木未尽はある日、学校で赤いバンパーのついたスマートフォンを拾う。「人と話さない」ことを己に課している未尽はその着信を無視していたが、次々と届くショートメッセージをきっかけに、スマホの持ち主、九童環とやり取りすることになる。九童環は自分がテロリストであり、未尽の高校に爆弾を仕掛けたという。爆発の時期は文化祭、起爆装置はスマートフォン。

話すことをせず、「黙視」して想像する。そこには語られない物語が、世界が今も広がり続けている。言葉を語らない高校生、幸乃木未尽は、学校を破壊しようとするテロリスト、九童環を探すことになる。ある意味、究極の一人芝居といえる青春ミステリ小説。台詞回しもどことなく芝居めいたところがある気がする。コミュニケーションのための言葉は語らない、それでいてモノローグではめっちゃ饒舌な未尽の語りは肩のこらないもので、親しみを持てるしすっと引き込まれる。

それぞれに抱える生々しい事情や鬱屈したものを少女の「黙視」という形で語る、不思議で優しい読み口の感じられる小説だったと思う。とても良い作品でした。過去の作品である「少女キネマ」に共通する雰囲気があるので、ぜひあわせてどうぞ。



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