景詠一 『吸血鬼は僕のために姉になる』 (ダッシュエックス文庫)

――言い忘れたことをいくつか。

これは本当に始まりであり、知らなかったことを知り続ける物語。

失ったと思った僕を包み込む世界の日々の物語。

世界に隠れ続けた幻想と、世界に生まれ続けた虚構。

それらに捧げる、愛の物語だ。

丘の上の屋敷には、盲目の吸血鬼が住んでいる。天涯孤独の身になった高校生、波野日向は、祖父の遺書に従いそんな噂のある屋敷に移り住むことになる。そこで彼は、二十歳前後に見える盲目の吸血鬼、霧雨セナに出会う。

第8回集英社ライトノベル新人賞銀賞受賞。すべてをなくした少年は、世話焼きで距離の近いお姉ちゃん吸血鬼と、今まで見ることのできなかった幻想に出会う。現代におけるヒトと、そのすぐ隣にある幻想・虚構の関係を描いた愛の物語。ギミックや世界よりも、キャラクターの心情を描くことにかなり心を砕いているかな。タイトルやテーマから連想するものと比べると静かでゆったりとした、意地悪な言い方だと地味で起伏に欠ける印象を受けた。悪い小説ではないんだけど、自分が今読みたいものではなかったか。