草野原々 『大絶滅恐竜タイムウォーズ』 (ハヤカワ文庫JA)

大絶滅恐竜タイムウォーズ (ハヤカワ文庫JA)

大絶滅恐竜タイムウォーズ (ハヤカワ文庫JA)

キャラクターたちは、ただ単に行動したり、言葉を発したりするわけではありません。その背後には理由があります。理由の力があって、初めて行動や言葉に生き生きとした感じが生まれるのです。

また、その理由は、単独で存在しているのではなく、適切な結びつきを介したネットワークとなっています。キャラクターたちが、この理由ネットワークの力によって動かされることで、生き生きとした感じが生まれ、リアルで魅力的となります。

つまらない、退屈なフィクションには、理由ネットワークの力が欠けています。

1832年。ビーグル号に搭乗していたチャールズ・ダーウィンは、得体の知れない老婆からある「お話」を聞かされる。それは、人類の進化を守るため、白亜紀へタイムスリップして知性化した鳥類との戦争を繰り広げる小田原市在住の女子高生たちのお話。

異なる時間、異なる進化との戦争を通じて、世界の真実が明らかにされる。宇宙、時間、進化、人間とキャラクターの関係。(開催されなかった)2020年東京オリンピック。フィクションとメタフィクションが融合した、超スケールのSF。不思議な進化をたどった鳥類が次々と現れる前半は動物番組か「鼻行類」のような趣。そこから6600万年のタイムスリップを経て、キャラクターがキャラクターたる「理由」の存在が語られ、時間軸を舞台にした進化をめぐる戦争が描かれる。バカSFと奇想小説と思弁小説とメタフィクションをこんなふうに詰め込んで、まとめあげられる作家だったとは。正直、作者の過去の作品はピンとこないところが多かったのだけど、これはとても楽しかった。解説の「アンチキャラクター小説」に膝を打った。こうして読むと、書いていることにはある種の一貫性があったんだなあと腑に落ちたというか。目の覚めるような衝撃でした。



kanadai.hatenablog.jp