玩具堂 『探偵くんと鋭い山田さん 俺を挟んで両隣の双子姉妹が勝手に推理してくる』 (MF文庫J)

そう、あれは悪意だ。悪意に対する悪意だ。

平和な結末、ハッピーエンドを邪魔する要素を取り除くために、考えて考えて解決しようとする。

彼が探偵を意識しながら消極的なのは、そのせいなのだと思う。物語の名探偵は事件を解決するけど、そこには犯罪があって、人を傷付けようとする攻撃がある。バンダインさんなどは殺人事件でないとお気に召さないらしい。

彼は逆で、そこにある事件を消してしまいたいと思っている。推理と言うより手品か魔法の考え方だ。幼稚なワガママとも言う。

父親が探偵をしている高校生の戸村和は、入学早々クラスメートから次々と相談を持ちかけられるようになる。そもそも戸村は探偵が好きではないのだが、首を突っ込んでくる両隣の山田姉妹に引っ張られ、三人で推理して問題を解決してゆくことになる。

クラスメートの浮気疑惑、「史上最薄」の『機械城殺人事件』、美術室の密室事件。探偵の息子と双子姉妹の放課後の推理劇。扱われる事件は日常の謎から、ノックスの十戒とヴァン・ダインの二十則を厳守した本格ミステリまで。引用されるのはホームズから富士ミス、アンソニー・ホロヴィッツまで。読みやすいラブコメでありつつ、ミステリとしての骨格はしっかりしている。ミステリとしては、絶版となった本のカバー「だけ」から、ノックスの十戒とヴァン・ダインの二十則を遵守したうえで本編の犯人を推理する「史上最薄殺人事件」が抜群に面白い。推理すること自体の面白さ、そのものが描かれている。

主人公とヒロインの双子もそれぞれに自然な形でキャラが立っており、ラブコメとして気持ち良く読める。学園ラブコメと日常の謎を両立させた小説はたくさんあるけど、それぞれがかなり高いレベルにあって、まとまっていると感じた。広い層におすすめできる。とても良かったです。