「それじゃィ。弱い。弱い弱い。おめえは神でも悪魔でもない、矢だ! 思い出せ。矢にできることなんざ、一ツっきりじゃろうがァっ」
地獄から蘇った前知事、黒革ケンヂによって、日本は忌浜県に制圧されつつあった。ビスコとミロは人々が圧政に苦しむ忌浜に潜入する。黒革の狙いは、ビスコを主人公にした『本物』の映画を撮影すること。そのために、日本全土を征服したのだという。
復活を遂げた最初の敵。その目的は、かつて自身を叩きのめしたヒーローを主役にした映画に撮ることだった。舞台は日本全国、再会あり、別れあり、笑いあり涙ありバトルありラブシーンもあり。映画がテーマだけあって、全部盛りの劇場版みたいな一冊になっている。
毎度毎度、悪役に愛すべき魅力があるのが本当に良い。男女問わず、モテモテのビスコは、まるで乙女ゲームのヒロインの様相。というか、巻を重ねるごとに向けられる愛のベクトルがあっちゃこっちゃと深くなっていくのが微笑ましくもちょっと怖い。世界において、『本物』と何か。「世界に祈られすぎて、自分に祈ることを忘れた」ビスコと作者自身が重なり合うあとがきにちょっと泣いてしまった。さらに一皮むけた。傑作だと思います。