犬君雀 『サンタクロースを殺した。そして、キスをした。』 (ガガガ文庫)

「でもきっと音楽にしても映画にしても、心に響くのは、辛いとか痛いとか、そういう誰かの心の叫びなんです」

付き合っていた先輩に振られた僕は、自暴自棄になっていた。気がつけば世間はクリスマスまで三週間ほど。クリスマスなんて、無くなってしまえばいいのに。そう思っていた僕の前に現れた少女は、僕にある提案をする。

サンタクロースを殺すため、クリスマスを消すために、僕と少女は恋人関係を結ぶ。第14回小学館ライトノベル大賞優秀賞受賞作。ふたりで過ごした思い出と、進行形の不器用な恋人ごっこが並行して描かれる、「恋を終わらせるための物語」。「猿の手」のいちバリエーションみたいな導入なので不安な気持ちになったけど、そういう方向の話ではなかった。SF的な仕掛けはあると言っていいかな。幸せだった過去と失恋を引きずり続ける重苦しさが終始つきまとう、逃避の物語だったのだと思う。