酉島伝法 『オクトローグ 酉島伝法作品集成』 (早川書房)

オクトローグ 酉島伝法作品集成

オクトローグ 酉島伝法作品集成

わたしたち幽霊は、月面の広大なクレーターの中央丘に寄り集まっていた。その数は二千名ばかり。頭上でゆっくりと回転している翠緑色の地球に、これから飛び降りようというのだ。

「環刑鈷」「金星の蟲」「痕の祀り」「橡」「ブロッコリー神殿」「堕天の塔」「彗星狩り」「クリプトプラズム」。グロテスクとコミカルと奇想と造語が、作者自身のイラストとともにこれでもかと詰まった八つの短篇を収録したSF短篇集。〈人〉とは何なのかというよくある問いを、思いもかけない切り口から描いた「金星の蟲」。光の巨人と戦っては倒される巨大生物、その死体処理する加賀特殊清掃会の日々を描く「痕の祀り」。膜の中に多様な遺伝物質を包含した“オーロラ”がもたらした結果を描いた「クリプトプラズム」。この三篇が特に好き。ブレインがウォッシュされるような、楽しい作品集でした。