悠木りん 『このぬくもりを君と呼ぶんだ』 (ガガガ文庫)

このぬくもりを君と呼ぶんだ (ガガガ文庫)

このぬくもりを君と呼ぶんだ (ガガガ文庫)

  • 作者:悠木りん
  • 発売日: 2020/07/17
  • メディア: Kindle版

体の横に垂らしていた左手の甲がこつん、とトーカの右手の甲に触れた。

この温もりは、きっとリアルなのかもしれない。

だって確かに隣にあって、この手で触れることができるから。

いまからおおよそ200年後の世界。地上に住めなくなった人類は、偽物の空と人工太陽に照らされる地下都市に生活拠点を移していた。フェイクでできた都市でリアルな何かを探していた少女レニー・ウォーカーは、不良少女のトーカ・オオナギと出会う。

第14回小学館ライトノベル大賞優秀賞受賞作。すべてがフェイク・偽物で出来た都市で、リアル・本物を求める少女の物語。フェイクとは、リアルとは、を何度も何度も繰り返す語り手は、青臭くもあり、おそろしく愚直でもあり。青春小説としてはそれでいいと思うのだけど、ストーリーの方はかなりの尻すぼみ。地下都市、人工太陽というSFガジェットに、数百年に渡る遺恨となった移民問題も、いまいち物語に活かされていない。仲谷鳰のモノクロイラストと描きおろしカラー漫画(!)は作品の雰囲気を掴んでおり、そちらは掛け値なしに良いものだった。