零真似 『君はヒト、僕は死者。世界はときどきひっくり返る』 (ガガガ文庫)

スクーターに乗って。ファイを後ろに乗せて。ときどきはしゃぎすぎる彼女に慌てながら。なにもない世界を。どこまでも。どこまでも。一緒に、走っていく。

そんな日が続いたらどんなにいいだろう。僕だってそう思う。

でも、思いだけを原動力にしてずっと走り続けることはできない。

いつか現実に追いつかれて、僕たちの歩みは止まってしまう。

そのとき訪れる“本当の別れ”が僕は怖い。

天に浮かぶ世界時計を境界として、ヒトの住む「天獄」と死者の住む「地国」とに別れた世界。地国の住人である死者の僕は、天獄から落ちてきた少女、ファイに出会い、ひと目で恋に落ちる。

引力が逆転する日まであと二十二日。決して実らない恋と知りながら、僕は彼女を守り続ける。第14回小学館ライトノベル大賞ガガガ賞受賞作は、とてもキュートでちょっと洒落たボーイ・ミーツ・ガール。二人乗りのスクーターで地国をさまよったり、恋するヒトのピンチにスクーターで突進して大暴れしたり、いっしょに空を眺めたり。なにもない(そもそも主人公に名前がない)地国で限られた時間を過ごす本来なら相容れない二人を、なにかの歌詞みたいな、独特のキレがあるテキストで語ってゆく。作者の本を読むのは『いずれキミにくれてやるスーパーノヴァ』以来になるけど、さらに洗練されたエンターテイメントになっている印象を受けた。ストレートでとてもかわいらしい、男の子と女の子の出会いと恋の物語でありました。



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