池田明季哉 『オーバーライト ――ブリストルのゴースト』 (電撃文庫)

今、この瞬間、大きな流れを覆そうと、革命を起こそうと、ひとつになっている。

互いに競い合ってきたアーティストたちが、ひとつの作品を作り上げようとしている。

いや、こう言ってもいいだろう。

彼らはこの場所で、自分の生き様そのものを、作品にしようとしている。

刺すような独特のスプレーの匂いさえも、なんだか今は心地よいくらいだった。

イギリスのブリストルに留学中の大学生ヨシは、バイト先のゲームショップの店先で、小さな落書きを見つける。バイト仲間のブーディシアとともに落書きの犯人を追うヨシは、この街にいるライター、「ゴースト」の存在を知る。

バンクシーの生誕地でもあるグラフィティの聖地、ブリストルで描かれる「挫折と再生」の物語。第26回電撃小説大賞選考委員奨励賞。実際に住んでいたという経験を活かし、馴染みの薄い都市の空気を自然な描写で描いている。グラフィティに関する知識もほぼゼロだったので、やりすぎない程度の解説も新鮮で楽しい。それぞれの分野で挫折を味わい、助け合い想い合うことで乗り越える。ジュヴナイルらしい、爽やかな王道の物語になっていると思います。