石川博品 『あたらしくうつくしいことば』

あたらしくうつくしいことば

あたらしくうつくしいことば

  • 作者:石川博品
  • 発売日: 2017/12/29
  • メディア: Kindle版
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わたしたちの高校には教室と廊下をへだてる壁がない。ないのは必要ないからだ。光だとか視線だとか、まっすぐなのがわたしたちで、この世界だから、それをさえぎるものなど必要なかった。

廊下から見ていると、無数の手が、目が、口が動いて、まるで細かい雨の落ちる水溜りのようだ――そちらに動きがあったかと見る内に、今度はあちらが動きだす。一人のはなしがはじまったかと思えば、それが終わるのと待たずに向かいの一人がはなしをはじめる。会話が波紋のようにつぎつぎ起こりひろがって、どこが中心かわからなくなる。騒がしさに目がくらむ。

短編2篇を収録した2017年冬コミ発行の同人誌。京の大路で牛車に轢かれ、異世界へと転生した僧が聖典を求めて西へと向かう。「異世界求法巡礼行記」は、コミカルな仏教説話風小説。主人公の生草坊主っぷりと破天荒さが豪快かつ軽快で肩がこらない。

女子ろう学校に、経営破綻した学校からやってきた二人の転校生。異なる「ことば」を持つ少女たちは、あたらしい「ことば」を作ることを模索する。表題作「あたらしくうつくしいことば」はろう学校の少女たちを描く。このあたりは作者のお手の物。言葉を話せない少女たちの、あけすけで饒舌な語りが騒がしくて眩しい。