宮澤伊織 『裏世界ピクニック3 ヤマノケハイ』 (ハヤカワ文庫JA)

老婆の姿がぼやけて、まったく違うものがそこに現れる。

互いにすがりつき、絡み合うようにして死んでいる猿のミイラ五体を芯として、無数の人間が蚊柱のように渦を巻いている。人間の形態をまったくとどめていないグロテスクな姿に、私は思わず怯む。ミイラの口が動いて、真っ黒な口腔から人の声が発せられた。

季節は秋。裏世界で閏間冴月の行方を探す空魚と鳥子の前に不穏な影がちらついていた。

人間の認識によって形を持つネットロアと、女子大生たちの様々な感情が複雑な渦を巻くサバイバルホラー第三巻。ヤマノケ、サンヌキカノ、自己責任系怪談という実話怪談をアレンジして、確かな恐怖を描いている。改めて読むと、似たようなサバイバルものの中でも、日常と非日常(異世界)の距離が特徴的な小説でもあるのかなあ。トラックよりもでかくて複雑なものにどつかれて裏世界へ、みたいな。「裏世界」という舞台装置を存分に活かした話作りをしていると思った。