川岸殴魚 『呪剣の姫のオーバーキル ~とっくにライフは零なのに~』 (ガガガ文庫)

窓の外からかすかに聞こえる断末魔。

そして工房の中からは煮詰めたアンデッドの残骸。

外も内も地獄の様相。負けず劣らずこの世の終わりのような光景。

しかし、この光景こそが〈屍喰らい〉の新生にふさわしい。

没落した儀仗鍛冶師の家に生まれた魔法鍛冶師の少年テア・コルピは、王に献上するためのミスリルを求め、辺境のウィルディンヌ地方へ向かっていた。その道中、オークの軍団に襲われ、もはやこれまでと思われたテアを救ったのは、巨大な鉈と奇怪な仮面をつけた異形の女性剣士シェイ・カイルだった。

儀仗鍛冶師を目指していた少年は、呪われた剣を持つ少女に出会い戦場鍛冶師になる。ずっとコメディを書いてきた作者の新境地となるであろう「オーバーキリング・スプラッタ無双」。テーマ的に新境地なのは間違いないのだけど、テキストや話作りのスタイルを大きく変えていないのはあえてなのかな。いかにも作者らしい冗談やツッコミを交えつつ話をしていた相手が、その数ページ後にはあっけなく殺されている。なんかとても不思議な感じ。

戦場鍛冶師、否定刻印、呪具の製作と使用を生業にし、最後のひとりになった少数民族、自己主張強めでヒョウ柄を好む西のエルフ族といったファンタジー世界の道具立ても、オーソドックスながらしっかりしている。リーダビリティの高さは良い意味でそのままだし、果たしてこのままで進むのか。期待してます。