カミツキレイニー 『魔女と猟犬』 (ガガガ文庫)

魔女と猟犬 (ガガガ文庫)

魔女と猟犬 (ガガガ文庫)

荷台の中央に、見知らぬ男が立っている。

黒い兜に、黒い手甲と黒いすね当て。胴当てだけは未装着で、黒の衣装に包まれた胸部と腹部は晒している。そのせいか、非常に華奢な印象があった。背丈もさほど高くはなく、迫力や凄みを覚えるわけではないが、兜で顔を隠しているからなのか、生気や気配をまったく感じられない。まるで幽霊と対面しているかのような薄気味悪さを感じる。

火と鉄の国と呼ばれる小国キャンパスフェローは、強大な兵力と魔術師たちを擁する大国アメリアの脅威にさらされていた。キャンパスフェローの領主バドは、大陸中に散らばり恐れられる魔女たちを集めて対抗するという奇策を打ち出す。手始めとして、隣国レーヴェで捕らえられた“鏡の魔女”を譲り受けるため、バドは従者たちを伴い自らレーヴェへと赴く。

国の未来を護るため、猟犬は大陸に散らばる魔女を集めることになる。“黒犬”と呼ばれる若き暗殺者(アサシン)ロロの「ダークファンタジー」。舞台は魔術師を独占する大国が覇権を握ろうとしているファンタジー世界。主人公の陣営を含めた各地の小国は、様々な手段で存続を賭けて抗おうとしていた。一冊をかけたプロローグではあるのだけど、この世界を描くのにかなり苦心した跡が見受けられた。なんというか、けれん味を除いてできる限り世界を細かに誠実に描こうとしているような。

暗殺者の一族や魔女の出自といった物語のベースはしっかりしているのだけど、それぞれのキャラクターに愛嬌があるからか、言うほど「ダーク」な雰囲気は感じないかな。小国同士の諍いや駆け引きも、良くも悪くもチンピラの抗争に見える。現時点で看板倒れなところも感じつつ、それぞれにフリークスめいた個性と能力を持つ魔術師たちや、バトルやアクション描写は掛け値なしに楽しい。手放しに勧めはしないけど、大きな物語をつくろうとしているのは見て取れる。大きく期待しています。