森川智喜 『死者と言葉を交わすなかれ』 (講談社タイガ)

死者と言葉を交わすなかれ (講談社タイガ)

死者と言葉を交わすなかれ (講談社タイガ)

本章では「死者の言葉」事件を例に取り考察を深めようと思うが、読者は注意されたい。一見ありふれているがそのじつ恐ろしさに満ちる「死者の言葉」事件。前章までに紹介した事例よりも刺激に富む。深く知ろうとするなら、理解しがたいものを受け入れる覚悟があらかじめ必要だ。

彗山探偵事務所に勤務する不狼煙さくらは、探偵の彗山小竹と浮気調査をしている最中に調査対象の死に出くわす。一見して心臓麻痺かと思われたが、調査対象に仕掛けた盗聴器には、死の当日に調査対象が何者かと交わした「死者との対話」が録音されていた。

「私は、死なない。驚きの結論と呼ばずにはいられない」。「死者の言葉」を追って調査を続けていた探偵と助手は、恐るべき悪意に出会う。いわゆるイヤミスというやつになるのかな。「京大生100%が騙された!」という惹句はいかがなものかと思うけど、手際はさすが鮮やかで、見事に騙された。リアルフィクションのような真っ白な装丁から、「死者」の意味するものや死生観に感心しながら読んでいたら、嫌がらせとしか思えない後味の悪さよ……。これもまたミステリの醍醐味でありましょう。後味は本当に最悪だけど楽しかったです。