- 作者:周藤 蓮
- 発売日: 2020/11/10
- メディア: Kindle版
「この恋心は永遠で、確かで、ずっと変わりません」
恐怖に何よりも似た甘やかさで囁きが届く。
「だからシーモアさん、私に任せて、楽になってくださいね」
それはすなわち、全人的な危機であった。
「死神」との諍いにも一段落し、世界も大きく変わろうとする時代。シーモアとルーミーのふたりにも新たな「日常」が訪れ、人々の認知によって、怪異の存在が世界に知られつつあった。そんなある日、シーモアを「パパ」と呼ぶ少女がとつぜん押しかけてくる。
終戦と、電話とラジオに象徴される情報化によって、人々の意識が急速に変化していく時代。そんな途上の時代だから起こりえた、恋の物語。今まで存在すらなかった怪異が、情報化の試行錯誤の中で顕在化して、堅固なものに強化されていく。リアリティラインの引き方が素敵だと思う。
怪物を愛した人間と、人間を愛した怪物がもたらした、美しくて理想的すぎるラストは、人類史上で最も平和な聖杯戦争の収め方、みたいな感じだった。ひとりひとりが出来ることをやった結果で世界は変わっていくし、特に何もしなくても世界は回っていく。それは人間も怪物も変わらない。なんというか、疑問を差し挟ませない純粋さが核にあるのを感じた。デビュー作から追いかけているけど、一貫して掴みどころのない作家だなあと思います。