- 作者:遍柳一
- 発売日: 2020/11/18
- メディア: Kindle版
また自分は、あの夏の、イスラエルでの記憶の中にいる。
どうやって、ここまで辿り着いたのかは覚えていない。
けれど、私はこの場所で、とても大切な人を捜していた。
ライドーとともに消えたハルの行方を追って、テスタたちは極東のウラジオストクに到達した。そこでは、生き残った人々が地下居住区に隠れ、貧困に喘ぎながら生活していた。娘の行方を探すため、重症化の傾向を見せるAIMDを気にしながら、Atheistの人工知能と対話をするテスタ。その再会は思いがけない形で訪れる。
十年以上にもわたり、この子とともに過ごしてきた。
この子の成長を、この子がひとりの大人になっていく姿を、私は誰よりも一番近くで見ることを許されてきた。
「私の幸福は、すでに叶えられました」
―――だからもう、私は、大丈夫。
「次はこの子が、自らの幸福を掴む番ですから」
ほぼ滅びかけた世界。イスラエルの元軍用ロボットと、言葉を知らなかった少女の物語、最終巻。人工知能が共有すべき「全」の思想、言語知性を与えられなかった「最初にして、唯一の人間」、無限相関、無限深層学習、完全情報物質、「悪魔の論文」。多重知能理論、日本国憲法、火星、善と悪。ハッタリと大風呂敷をこれでもかと広げながら、ロボットの母と人間の娘の「母と娘の物語」を高らかに歌い上げる。
人とAIの関係、人とクローンの関係を描くきっかけになる、人工知能同士の対話のシーンは本当に良かった。娘にベタ甘だった母が、娘を失ってその愛情を言葉にしてゆく、それだけで物語が生まれる。しみじみと良いポストアポカリプスSFであり、母娘の物語だったと思います。お疲れさまでした。
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