十三不塔 『ヴィンダウス・エンジン』 (ハヤカワ文庫JA)

ヴィンダウス・エンジン (ハヤカワ文庫JA)

ヴィンダウス・エンジン (ハヤカワ文庫JA)

ここはドユンのアパートだろうか、それとも僕の部屋だろうか。見えるのは時計の秒針だけ。秒針だけが虚空を回転し続けている。

もうすぐ僕の症状は完成するだろう。

どんなバネやジャイロの補正よりも完璧にブレなく捉え、そのことによってすべてを抹消する機能が。

運動していないものを視覚できなくなる奇病、ヴィンダウス症。世界に68人しかいないこの難病から寛解した釜山の青年キム・テフンは、四川省成都の四川生化学総合研究所から協力を要請される。その要請とは、ヴィンダウス症寛解者を、都市運営AI〈八仙〉と接続する実験だった。

動かないものを認識できなくなるヴィンダウス症を克服した青年は、成都の支配者と〈仙境〉に住まう八体の都市管理AIの計画に巻き込まれる。第8回ハヤカワSFコンテスト優秀賞を受賞した、近未来の韓国と中国・成都を舞台にした「アジアン・サイバーパンク」。ヴィンダウス症の発症原因と、一人っ子政策をすすめてきた中国の関係や、神仙の名前を持つ都市AIたち、時間の流れが異なるAIたちの世界〈仙境〉、そこで生まれたオーバーテクノロジーなど、盛り盛りなガジェットはそれぞれに魅力的。それに対してキャラクターの魅力が薄いか。結果として、ストーリーを動かす動機にあまり魅力を感じなかったというのが正直なところ。いかにもSFの新人賞らしい小説……というのはちょっと偏った感想かもしれない。