松村涼哉 『監獄に生きる君たちへ』 (メディアワークス文庫)

――あぁ、この監獄に監視者はいなかったんだ。

誰も自分など監視していない。そして、ここに暮らす住人全員、誰かが監視していると思い込んでいる。だからどれだけ叫ぼうと助けには来ない。

絶望しかなかった。やがてオレは考えることをやめた。

廃屋に監禁された六人の高校生。建物には「私を殺した犯人を暴け」と書かれた手紙が残されていた。差出人の名前は真鶴茜。六人全員を救うために奔走し、七年前、この場所で転落死した児童福祉司の女性だった。

七年前。監獄のような団地にいた六人の小学生と、ひとりの児童福祉司の間にあった出来事を、その周辺の記憶からたどってゆく。メディアワークス文庫からの三作目は、児童福祉の現実をテーマにした人狼ゲーム風犯人探しミステリ。少年犯罪をテーマにした『15歳のテロリスト』、無戸籍児の問題を扱った『僕が僕をやめる日』に引き続き、本を出すごとに小説として洗練されているのは間違いないのだけど、愉快とはいえないこれらのテーマを一貫して取り扱うモチベーションというか情熱というか、そういうものがどこから来ているのだろうか。虐待を受けていた子供たち、自身の生活を犠牲にして救った児童福祉司、現状を理解していないがために間違った方向へと舵を切る地域社会と行政が悪い方向にがっちりかみ合った末に生まれたひとつの悲劇。重苦しく、目を逸らし難い物語であったと思います。



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