石川宗生 『ホテル・アルカディア』 (集英社)

ホテル・アルカディア

ホテル・アルカディア

このヴァン・ゴッホの亜種は、一部地域の古民家の天井裏に棲息している。ゴッホがいるかどうかを調べるのは簡明で、光源がないにもかかわらず壁一面が星空のように光り輝いていたり、人の耳の断片らしきものがそこらじゅうに落ちていたりしたら、棲息していると判断してまず間違いない(光は蛍光性の体液によるマーキング、耳のかたちをした断片は排泄物だとされている)。天井裏という手狭な環境に適応するため身体が矮小化している一方、目はひまわりのごとく巨大化しており、暗闇のなかで灼然と輝きながら自在にうごきまわる。生け捕りにするのは非常に難しく、もとより希少生物であるがゆえに、発見されるのはミイラ化した死体と相場が決まっている。

ホテル・アルカディアに集まった七人の芸術家たちが、支配人の娘のために綴った物語の数々。多国籍・無国籍な10ページ前後のショートショートを20編以上積み重ね、物語はぐるぐると循環してゆく。奇想、幻想、SFとテーマもモチーフも読み味も雑多でバラバラ。個人的には「チママンダの街」「No. 121393」が好きかな。のんびりゆっくりとページをめくっていけば、きっと気に入る話があることでしょう。