宇佐楢春 『忘れえぬ魔女の物語』 (GA文庫)

忘れえぬ魔女の物語【電子特装版】 (GA文庫)

忘れえぬ魔女の物語【電子特装版】 (GA文庫)

「どうして泣いているの?」

彼女とわたしは別の生き物なんだ。人間は忘れる生き物で、忘れられないわたしは別の生き物。共通言語はない。使ってる言葉こそ同じだが、違う文法で機能している。

「ごめんね」

首を振るしかなかった。

高一の春、高校の入学式は3回繰り返された。わたし、相沢綾香がそのすべてで出会うことになる、生まれて初めての友達、稲葉未散は、将来魔法使いになるのだと言った。

第12回GA文庫大賞金賞受賞作。繰り返される「今日」、そのうちの一日だけが「採用」されて「昨日」になる。すべての記憶を持ったまま、たったひとりでその時間を生きてきた「魔女」は、自称「魔法使い」の少女と友達になる。わかりやすく言えばセカイ系百合SFというのかな。まるで絵を描くように繰り返される時間とすれ違うふたりの少女、といういかにもそれらしいテーマではあるのだけど、75年近くの人生を送ってきた15歳の魔女の苦悩を泥臭く泥臭く描いているのがそれ以上に印象に残る。