大澤めぐみ 『Y田A子に世界は難しい』 (光文社文庫)

Y田A子に世界は難しい (光文社文庫)

Y田A子に世界は難しい (光文社文庫)

「私はロボットなので健康被害の心配がありませんから、放射能汚染区域や感染症リスクの高い場所など、人間には活動が難しい現場での仕事に適性が期待できます」

「いやでも戸籍上はただの十六歳の女子高生だから、普通の女子高生でもできるバイト以外に就くのは無理なんじゃないかな」

え? マジで? ロボットの利点ゼロ? さすがにアイデンティティクライシスだ。

ふたりの天才博士によって開発されたAI内蔵人型ロボット、瑛子は和井田家に居候していた。理由あって女子高生の姿をしている瑛子は、家族の勧めで高校に通うことになり、友達のいなそうな少女、風香と友達になることにする。

友達を作ったり、バイトをしたり、部活動をしたり、大家族の騒動に巻き込まれたり。Twitterと2ちゃんねるで情操を育んだ女子高生型ロボット、世界に足を踏み出す。第一印象は令和の『サザエさん』とでも言うのかな。作者独特の文体で語られるロボットの成長、人間の友情、家族愛、『ボボボーボ・ボーボボ』へのリスペクトにどんどん引き込まれていった。ここにはすべてが詰まっているし、人情と未来への希望に溢れている。人間よりも圧倒的に寿命の短いロボットに語り手を置きながら、いい意味で予想を裏切るラストもとても良かった。令和最新の人間讃歌であると思います。