土屋瀧 『忘却の楽園I アルセノン覚醒』 (電撃文庫)

忘却の楽園I アルセノン覚醒 (電撃文庫)

忘却の楽園I アルセノン覚醒 (電撃文庫)

  • 作者:土屋 瀧
  • 発売日: 2021/03/10
  • メディア: Kindle版

「最高統治者は終身制。独身が慣例です。わたしにその機会が訪れることはないでしょうな」

「……役立たずな女め。子も産まず、男の真似事をして有頂天になっておる」

「シナーバ・ラ・モーレ……女は男に身を捧げ、尽くし、子をもうけよ、でしたか。ドラル神曲は黴臭い古典だと記憶していましたが、あなたがたにはまだまだ現役のようですね」

度重なる争いの末、地表の大半が海に覆われた世界。生き残った人類は、残留する汚染物質と〈旧世界病〉に蝕まれながらも、わずかな陸地と船上で社会を築き上げていた。訓練船での訓練期間を終えたアルムは、囚人移送船〈リタ〉への着任と、そこに封じられた少女、フローライトの管理を命じられる。

武器、科学技術、信仰の三つを放擲した新世界。モラトリアムを終えた三人の少年少女は、それぞれの出自と世界、運命に翻弄される。第27回電撃小説大賞銀賞受賞のSFファンタジー戦記。サブタイトルのアルセノンとは、人類を滅ぼす毒であり、覇権を握るための抑止力であり、ひとりの少女でもある。

世界が終わって長い時間が経ち、それでも変わらないものがあり、変わろうとするものがある。登場人物の多さや専門用語など読みにくいところはあるけど、物語の世界を一から造って、社会や価値観の変化をはじめとした大きな物語を描いていこうという気概をひしひしと感じた。これからの物語だと思うのだけど、応援したい気持ちになりました。