谷山走太 『負けるための甲子園』 (実業之日本社文庫GROW)

負けるための甲子園 (実業之日本社文庫GROW)

負けるための甲子園 (実業之日本社文庫GROW)

あのとき、甲子園の決勝であとアウト一つというところで啓人が投げたのは、ど真ん中の棒球。

つまりは、わざと打たれたのだ。

誰からも称賛されることはないだろう。期待を裏切り、踏みにじった。そしておそらく自分には、なにも残らない。

夏の甲子園決勝。筧啓人はそのマウンドに立っていた。1点リードで迎えた9回裏2アウト、啓人は逆転のホームランを打たれ、一千万円という大金を手に入れる。不可解な投球を問いただす捕手の矢久原を、啓人はある店に連れて行く。

第1回令和小説大賞選考委員特別賞受賞作。努力の末にたどり着いた甲子園の決勝で、彼はなぜ打たれることを選択したのか。デビュー作の高校卓球に引き続き、高校野球をテーマにしたスポーツ小説。……なんだけども、導入からリアリティラインをぶっ壊す、かなりの変化球が投げられる。正統派スポ根だった『ピンポンラバー』のようなものを想像していたのもあって正直かなり面食らった。そこが狙いでもあるんだろうけど、結構なもやもやを押し付けられたまま読むことになった。序章はそれだけで短編として完成しているし、結末は単体で悪くないと思う。しかしリアリティがブレブレなおかげで、たぬきに化かされたかのような、変な感覚でした。



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