麻枝准 『猫狩り族の長』 (講談社)

「頼む、解放してくれぇ……」

海中に膝を突き、両手を合わせ、懇願する。

人知ならざるもの。天に座する神へ向けて。

ここに居る人間なんて、まるで眼中にない。

壮大な祈りだった。

自殺予防の監視手伝いとして自殺の名所を見張っていた大学生、時椿は、飛び降りようとしていた黒髪の女性に声をかける。サウンドクリエイターだというその女性、十郎丸は、自らが死にたい理由を饒舌に、理路整然と語り始める。自殺志願者とは思えない態度に混乱する時椿は、十郎丸を家に連れて帰る。十郎丸は時椿の名前に免じて、自死を五日間先延ばしにすると言う。

自殺志願のクリエイターと自殺を止めたい大学生のいっときの出会い。麻枝准が「初めて本当に思っていること」を書いたという処女小説。死にたい理由を語り、自身の成功を語り、未知の音楽に衝撃を受けて、ふたりで水族館に行き、海を見に行く。そのほとんどが十郎丸の自分語りで構成されている。作者のパーソナリティをほぼ知らないのだけど、これは自叙伝なんだろうか。出会ってから五日間の出来事を、朝起きてから夜寝るまで、ほぼそのまま時系列順に描いてゆく。いかにも「らしい」テキストだと思うけど、そういうスタイルも含めての自叙伝なのかな。単体でも悪い小説ではないと思うけど、ファンの解説がほしいなと思いました。