「こちらでの生活はいかがです? リヨンよりも過ごしやすいでしょう?」
「確かにすごく過ごしやすいよ。もう四月だけれど変わらず寒いし、野菜は安いのに栄養ゼリーが高い。配達ドローンの故障が頻繁に起きるから、ECサイトで買い物する気が失せる」
間。
「楽しく過ごされているようで、私も嬉しいです」
ICPO電子犯罪捜査局に復帰したエチカは、ペテルブルク支局に異動し
やはりハロルドはアンガスの言っていた、『小部屋の中の英国人』には見えない。その根幹を為すものがただのプログラムなのは理解している――しかし、どうしたってもっと複雑に感じる。
これは、自分自身の擬人観から生じる幻想なのだろうか?
舞台はロンドン。電索官エチカと、補助官でアミクスのハロルドのバディを通じて、人間とAIの築いてきた社会と、人間とAIそれぞれの違い、関係を描いてゆく。テキストは非常に読みやすく、細やかなところまで情報が行き届いているのにすっと頭に入ってくる。
彼は日頃、人間と重なって見える。家族であるダリヤを愛する気持ちも、ソゾンを殺されたことへの復讐心も、ほとんで『人間』そのもので。
けれどやはり、違うのだ。
RFモデルに、中国語の部屋は当てはまらない。
だとしても――ハロルドは、どこか別の小部屋の住人だった。
パンデミック後に発展した人工知能研究、