伊崎喬助 『董白伝 ~魔王令嬢から始める三国志~4』 (ガガガ文庫)

「この蹄の音、忘れようがない」

それまでうっすら聞こえていた音が蹄の音だと、趙雲もようやく気づいた。想像すらしなかった。こんな地鳴りじみた蹄音を立てられる馬がこの世にいようなど。

赤い馬影が、崖の上に躍り上がる。

馬の形は遠近感を疑うほどに大きく、その背には一人の武者を乗せていた。手にした武器は、方天画戟。

曹操に拉致され、許昌へと連れてこられた董白。そこに現れたのは、白い虎にまたがった孫家の娘、孫尚香だった。董白を連れ出した孫尚香は、袁術と呂布が手を組んだ「長江同盟」に協力した孫堅を手伝わせようとする。

孫堅の樊城攻略。天下無双、呂布。本来の歴史とは違った形となった三国鼎立を描く、シリーズ四巻。今回も面白かった。素材の活かし方が抜群にうまい、というべきなのかな。三国志という題材があるとはいえ、英傑の個性が異様に立っている。戦場でも政治の場でも、英傑がそれぞれに持つ迫力を描いていて、一筋縄ではいかない。安定して楽しみなシリーズのひとつになりました。