石川博品 『トラフィック・キングダム』

「もの作りの大半は地道な作業だ。やる仕事のすべてがクリエイティブなのは行きあたりばったりの詐欺師だけだぞ」

先生は音もなく机に跳びのる。

それでも僕はひとつひとつのことば、ひとつひとつの文に深い意味とバックグラウンドストーリーを忍ばせたいんですよ」

「そんなものが書きたければ歴史の年表でも書いていろ」

2016年夏のコミックマーケット90で頒布された中短編集。売れないライトノベル作家と、人語を話すネコの「先生」の冴えないふたり暮らしを描いた「先生とそのお布団」。翌年にガガガ文庫から出た同タイトルのプロトタイプになるのかな。尺は短いけどユーモアをまぶしたしょぼくれ具合はさすがのもの。ドッグミートの視点から描かれる『Fallout3』のファンノベル「がんばれドッグミート Dogmeat Can't Fail」は、健気にがんばるドッグミートが(イラストもあわせて)かわいらしい。表題作「トラフィック・キングダム」は、パケット(自動運転車のようなもの)の飛び交う黄昏の都市で、ふたりの中学生が抱えた閉塞感を語る。脆さと不安定さのにじみ出る、生っぽい砕けた語り言葉が非常に印象に残る。それぞれに方向性の違う、とても良い本でした。



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