二月公 『声優ラジオのウラオモテ #05 夕陽とやすみは大人になれない?』 (電撃文庫)

「わたしは……っ! あなたにだけは、絶対に追い抜かれたくないけれど……っ! それと同じくらい……、追い抜かれるならあなたがいいのよ……っ!」

どん、とこちらの胸に額を当てて、呻くように続ける。

「あなただけしか……、前に行かせたくない……っ!」

新作アニメへの共演が決まった夕陽とやすみ。メインヒロインに抜擢されたのは、夕陽の後輩で新人の高橋結衣。その天才的な演技にふたりは圧倒される。デビューして数年、まだ高校生でやすみは主役も経験していないのに、少ない椅子の奪い合いはすでに始まっていた。

進行形で炎上する現場に苦しめられ、後輩の天才的な演技に焦りを覚え、大学進学かそのまま声優として進むのかを悩む。夕陽とやすみの明日はどっちだ。高校三年生になり、仕事と才能に加えて、進路の悩みまで追加された、新人声優たちの仕事と青春の物語、第五巻。アニメの現場の緊張感と炎上感には説得力があるし、ライバル二人の細かいやり取りや脇を固めるキャラクターにも強い存在感がある。うまく言えないのだけど、キラキラした青春小説と、泥臭いお仕事小説の間で、不思議なリアリティレベルの舵取りをしているように見える。今回もとても良かったです。