空木春宵 『感応グラン=ギニョル』 (創元日本SF叢書)

――今一度問う。地獄、お前はお前を犯さんと欲する者どもを如何してやりたい。

「皆――地獄に――」肩で息をしながら、切れ切れにわたしは答える。「皆、残らず地獄に堕としてやりとうございます」

襤褸布の翳で、御坊の目見が喜悦に歪む。

昭和の初め。浅草六区の見世物小屋、浅草グラン=ギニョル。ここには身体の一部が欠損した少女たちが集められ、日々芝居を興行していた。新しく心を欠いた少女が加入することで、世界は大きく変わってしまう。表題作「感応グラン=ギニョル」

ペドフィルを捕らえる目的で開発された少女AIをめぐるふたりの女、ふたつの時代の物語、「地獄を縫い取る」。不勉強なもので地獄太夫の名前をここで初めて知りました。

恋をした男は蛙になり、恋をした女は蛇になり男を喰らう。恋が奇病となった恋愛禁止の世界の出来事を切り取る「メタモルフォシスの龍」。歪でグロテスクなラストがとても良い。

戦火のさなか、病気の少女たちが集められた女学園では、奇妙な物語が流行っていた。吉屋信子にインスパイアされたと思われる「徒花物語」は、ある意味この本でいちばんSFらしい小説だった気がする。

「感応グラン=ギニョル」のその後の話を描いた「Rampo Sicks」は、ワイドスクリーン乱歩バロックディストピアと化した浅草のある女達を描く。

第2回創元SF短編賞を受賞した作者初の短編集。怪奇と幻想、猟奇と耽美、あと欠損少女へのじっとりしたフェチズム。暗い情念に満ち満ちた作品集となっていた。あらすじのキーワードになにか引っかかるところがあるなら手に取ってみるといい。今回は短編集だったけど、次は同じテーマの長編をじっくりと読んでみたいなと思いました。