土屋瀧 『忘却の楽園II アルセノン叛逆』 (電撃文庫)

彼らは示し合わせたように言うのだ。

「わたしならあなたにいいお世継ぎを授けてさしあげられる」と。

なんのてらいもなく、当然のこと、というように。

そんなこと、これっぽっちも求めていないのに。

オリヴィアは自分が女性であることに改めて幻滅した。先に進もうとする自分に足枷をはめているのは、ほかでもなく自分だったからだ。

輸送船〈リタ〉の船員アルムのもとへ、父コランの訃報が届く。マリネリス島の研究施設ごと燃やされたというコランの死因を探るため、グレン・グナモアはアルムをマリネリスへと向かわせる。

数百年前の大戦争後の新世界、忘却の楽園〈リーン〉の歴史を、立場を異にする三人の少年少女から描いてゆく。異世界史、あるいは新世界史の第二巻。人間を殺す毒物であるアルセノンに依存して、古い価値観と新しい価値観が入り混じる様々な国と人々が、影から覇権を狙う。理想主義者と超保守主義派が影でぶつかり、強毒性アルセノンと弱毒性アルセノンを人為的に産み出してきた倫理。一巻と同様に、大きなスケールの世界と歴史を一から、実直に語ろうという意欲を感じられる。今一番続きが楽しみな大河ファンタジー。大変だと思うけど楽しみに待っています。



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