蛙田アメコ 『九龍後宮の探偵妃』 (星海社FICTIONS)

「お前はどうせ民のなかには居られまいよ……人々の間にいたとしても、独りきりであり続ける。我が後宮は、そんな女たちの揺り籠であり、そんな女たちから民草を守る檻なのさ。囚われる自由というものが、ここにはある」

龍光国の都、哭安に暮らす武家の娘、燐紅玉。死を何よりも恐れ、名門の出でありながら探偵の真似事を繰り返していた紅玉のもとに、宮廷から使者がやってきた。使者の依頼は、九龍後宮で見つかった惨殺死体の謎を解き明かすこと。

謎を解かずにいられない、探偵妃が、後宮の数百人の女たちとわずかな宦官がひしめく後宮での密室殺人、幽霊、死体遺棄、妊娠の謎に挑む。帯に曰く「中華後宮ミステリー」。後宮が舞台になっている割には、退廃的な雰囲気がない……のは理由がある。セックスとジェンダーはわやくちゃになり、代々作られてきた男たちの政治はここで壊される。新しい時代と価値観が後宮から生まれる、という。まとまってはいるのだけど、割と唐突に話がひっくり返るので、テーマが後付けっぽく見えるのが気になった。