紺野天龍 『錬金術師の密室』 (ハヤカワ文庫JA)

「――まあ、いい。無知蒙昧なきみに、特別に教えてやろう」

そう言って、男装の麗人たる錬金術師は握手を解き、胸元に手を添えて朗々と告げる。

「私は、テレサ・パラケルスス。真名をテレサフラストゥス・ボンバストゥス・フォン・ホーエンハイム。至高にして極限にして神域の錬金術師である!」

蒸気機関と錬金術によって発展を遂げた世界。アスタルト王国軍務省の新人、エミリア・シュヴァルツデルフィーネは、錬金術対策室室長の錬金術師、テレサ・パラケルススとともに水上蒸気都市トリスメギストスへ赴く。大企業メルクリウスに所属する錬金術師フェルディナント三世が、第四神秘である《魂》の解明を成し遂げたというのだ。だがその神秘後悔式の前夜、フェルディナント三世の死体が密室で発見される。

トリスメギストスに見立てられた三重の密室で、世界に七人しかいない錬金術師の死体が見つかる。錬金術が織りなすファンタジー×ミステリ。あるいは、錬金術のお約束×密室殺人事件のお約束。それっぽい固有名詞を、やりすぎなくらい詰め込んだ錬金術描写は、キャラクターを強めに出したライトな筆致と相性がいい。エンターテインメントとしてきれいにまとまっていたと思います。